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よろず屋の猫

ずっと手をつないで

『ずっと手をつないで』


ひらひらとサクラの花びらが君の長い髪で遊んでいる。
オレが見とれているのはそれなのに、「きれいですね。」と君は言う。
「そうだね。」と返すと、君はニコニコと子供みたいな笑顔。

桜は満開。
この時期だけつるされたぼんぼりの灯りにてらされて、夜の空に浮かぶ淡いピンクの雲みたいだ。

今夜の君の唇と同じ色。

箱入り娘の君には、このまま暗がりに連れ込んで、その紅をかすめとってやろうかなんてよこしま気持ちをオレが抱いているなんて、知る由もないんだろう。

お花見の酒盛りで騒ぐ人たちを面白がって見てるから、さっきからしょっちゅう君は行きかう人とぶつかる。
だからオレはしっかり手をつないで、まるで保父さんみたいに君を引率して歩かなきゃならない。

君が笑う。
楽しそうに話しかける。
からかうとすぐ本気で怒って、そのくせ食べ物であっさり機嫌を直す。
そんな君をいつも見ていたいと思うようになったのはいつからだろう。

だけど泣き顔はもう見たくない。
たくさん見てきたからね。

他の男を想って落とした涙。

君はたった一人の男をずっと長い間想って泣いていたね。
何度も何度も目を真っ赤にはらし、鼻水で可愛い顔を台無しにして。
それでもその男を想う事を手放さない。

はっきり言ってめちゃくちゃ頭に来るけど、仕方がない。
オレは君を好きだから。

だからこうやってずっと手をつないで二人で歩こう。
君の隣にいつもいられるように。

オレは君の手を離すつもりはないからさ。




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